Nothing on my mind

なんだかごちゃごちゃ話したくなったことを

夜の隅田川沿いが好きだという話

夜はどんどん更けていって、蝋燭が燃えるようにじりじりと残り少なくなって、じきに明日になってしまう。それでもこんなふうに、川のほとりでとりとめのない話をしながら対岸の街の明かりを眺めたり、鼻歌とまろやかに混ざる水音を聴いたりしていると、絶対に勝てないはずのよくわからない存在に一矢報いた気持ちになる。ものすごい勢いで色褪せていってしまう夜から、なにかを盗み取ってこっそり自分のポケットにしまい込んだ気持ちになる。ほどよく回ったお酒のせいであんまり細かく思い出せないんだけど、まるで音や匂いのする写真のように、焼きつくんだ、何シーンかが。


働いてクタクタになって家賃や生活費を稼がないといけないこと、歳をとってしまうこと、考え方や生き方が変わっていくのに不安になること、これらにわたしは絶対に勝てない。
だからせめて、夜を盗む。引き延ばす。いつまでこうやって生きられるだろう。この瞬間を、気持ちを、どうにか抽出していつでも静脈注射できればいいのに。

ちびちび飲んだスミノフが空になって、夜風に吹かれてすこし涼しくなったら、今夜はおしまい。
週末のこの時間の浅草線は空いていて、うつらうつらしながら揺られると、じきに家に着く。夢うつつのままシャワーを浴びて、ぐっすり寝て、月曜になったら週末のことなんか忘れたように働く。